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横浜地方裁判所 昭和44年(ヨ)862号 決定

申請人 安藤洋

右代理人弁護士 山本博

同 豊田誠

同 上条貞夫

同 中西克夫

同 清水洋二

被申請人 大日本塗料株式会社

右代表者代表取締役 池田悦治

右代理人弁護士 馬場東作

同 福井忠孝

主文

申請人が被申請人会社の東京支店製品倉庫課製品倉庫係長として被申請人会社横浜工場に勤務する従業員たる地位にあることを仮に定める。

申請人のその余の請求を却下する。

申請費用は被申請人の負担とする。

理由

第一、当事者双方の申立

申請人代理人は主文同旨ならびに「被申請人は申請人を昭和四四年七月三一日当時の労働条件を基準に従業員として扱え」との決定を求め、

被申請人代理人は「本件申請を却下する。申請費用は申請人の負担とする。」との決定を求めた。

第二、当事者間に争いのない事実

一、被申請人会社(以下単に会社という)は塗料油脂ならびにその原料等の加工、販売を目的とし、肩書地に本社を置き全国各地に営業所、工場を有する株式会社であること、申請人は昭和三二年四月会社に入社し昭和四二年八月以降東京支店製品倉庫課製品倉庫係長の職にあり横浜工場に勤務していたこと、右会社従業員は地域ごとに大日本塗料西部労働組合、同湘南労働組合、同東部労働組合(以下東部組合という)の三つの労働組合を組織し、右三組合は大日本塗料労働組合連合会(以下連合会という)を構成し、申請人は昭和四二年七月以降横浜工場ならびに東京支店の従業員の構成する右東部組合組合長ならびに右連合会役員を勤めていたところ、昭和四四年四月二五日会社と連合会との協議機関である中央労資協議会において会社から連合会に対し申請人を管理職に発令したい旨の申し入れがなされたこと、次いで同年七月申請人は同組合長に三選されたが、会社は同年八月一日申請人に対し同日付で生産本部横浜工場購買課長代理を命ずる旨の意思表示(以下本件配転命令という)をなしたこと。

二、会社と連合会との間に締結されている労働協約第六条第一号によれば、管理職員は組合員から除外され、また東部組合規約第四条第二号は部課長に準ずる者も非組合員とする旨定められているので、申請人が右配転命令を受諾すれば必然的に非組合員となるべきものであること、なお右労働協約第二七条第二項は「会社は組合員の人事に関する基本的事項については連合会又は組合に連絡のうえ決定する」旨を定め、右協約の附属協定書である覚書(4)1は右協約の規定にいう基本的事項とは「組合員の異動、任免、賞罰その他人事に関する基本方針又は組合役員の転勤、職場、職種転換をいう」とし、更に同覚書(4)3には「組合役員の転勤、職種転換については、会社は予め連合会又は組合と協議する」旨の人事協議約款が定められていること。

以上の事実は当事者間に争いがない。

第三、申請人の主張

一、本件配転命令は次のいずれかの理由により無効である。

(一)  人事協議約款違反

会社の本件配転命令は右人事協議約款に違反するものである。

即ち、

(1) 会社は昭和四四年四月二五日の中央労資協議会において連合会に対し、連合会会長生方治郎と申請人とを同年五月一日付で管理職に発令したい旨申し入れたが、連合会がこれを拒否したため、会社は右申入れを撤回した。しかるに、その後申請人は同年七月一一日組合長に三選されたから、会社は前記覚書(4)3に従い新年度の役員としての申請人の配転について改めて連合会又は組合と協議をすべきであるのに、右七月一一日以降何らの協議も経ないで本件配転命令をなしたものであって、本件配転は規範的効力を有する右覚書(4)3に違反して無効である。

(2) かりに会社の右四月二五日の中央労資協議会での申し入れに対し、連合会が会社主張のようにその発令を同年八月一日に延期すべきことを了承した事実があったとしても、覚書のいう協議を履践した結果ではない。元来右人事協議約款は使用者の恣意的な人事権、指揮命令権の行使から労働者の労働条件と生活ならびにその団結と組合活動を守る目的で使用者の右人事権に枠づけをするものであるから、そこにいう協議とは、会社が単に連合会又は組合の意見を徴するとか、あるいはその協議に付せば足りるという消極的なものではなく、双方が信義に則し慎重に協議することを要求しているのであり、かかる慎重な協議を重ねてもなお妥協に至らず、あるいは連合会、組合側のみに協議についての信義則違反がある場合にはじめて会社は一方的に人事権を強行できるのである。しかるに、右申し入れはただ単に申請人を管理職にしたいというにすぎず、その配転先や労働条件については何ら明示されず、しかもその討議は極めて短時間に終了し連合会の同意のないまま発令延期の了承がなされただけで打ち切られたものであって、しかもその後申請人が組合長に三選されたにもかかわらず配転の発令まで遂に何ら協議はなされていないことに徴し、到底慎重協議があったとはいい難い。

(3) 仮に右四月二五日の討議が協議の実質を具えていたとしても、覚書(4)3は、会社が連合会役員の転勤、職種転換については連合会と、各労働組合の役員のそれについては当該組合と協議することを要求しているにも拘らず、本件配転について会社は東部組合と一度も協議していないから、この点においても本件配転は無効である。

(二)  労働契約違反

配転もしくは転勤に伴う労働内容や勤務場所の変更は労働者にとって新な労働に対する適性の有無、労働条件の差異等の点において重大な利害関係をもつものであるから、配転や転勤は労使間の新な合意によってのみ可能であると解するのが労働契約の本旨にかなうというべきである。

本件配転は申請人をして、第一にその職場を東京支店製品倉庫課から横浜工場購買課に、組織系統からいえば営業本部から生産本部に、第二に事務職二級の係長から管理職一級の課長代理に移動せしめるものであり、右第一の職場の変更もさることながら、課長代理が組合に対立する会社の末端職制として従業員の統制指導をなす管理職であるのに対し、係長ははるかに機械的な労働力の提供をなせば足りる事務職であるという著しい労働内容の変更を伴う。しかるに申請人は本件配転を終始争っているのであり、この点において本件配転は労働契約に違反して無効である。

(三)  不当労働行為―不利益扱いと支配介入

(1) 会社は従前から、従業員に対し、大巾な時間外労働を強要したり、昼休みを三〇分しか与えぬ等低い労働条件を押付け、又安全設備の不備から労働災害が多発し、塗料などの製造に用いる有機溶剤や鉛による健康障害者が少くないなど安全衛生の面もおろそかであった。他方会社は昭和四〇年ころ自覚的な組合活動家今村茂夫に「アカ」という中傷を加えて不当な配転を命じこれを拒否した同人を解雇し、又同期会の結成を企てた従業員を不当に解雇する等不当労働行為を敢てした。

(2) 当時の東部組合指導部は右時間外労働を大巾に認め、昼休みの短縮と機械の連続運転を認める等会社の労務政策に全面的に協力するとともに、前記今川の解雇に関しても会社に抗議せず、むしろその抗議運動を妨害したり、組合活動につき会社から経費援助を受ける等労使協調路線を採り会社に対し労働者の生活と権利を守り組合の統一と団結を擁護する姿勢は見るべくもなかった。

(3) 申請人は昭和四二年七月の東部組合役員選挙に際し、「組合民主主義の徹底を」「ガラス張りの執行部を」「職場の中に運動を」等のスローガンを掲げて立候補して当選したのであるが、右選挙にあたり会社は、社長池田悦治自ら組合員に「安藤君を君たちがそんなに信頼するならこの九月に課長代理にしてもよいから組合長にしないで欲しい」旨発言する等様々の選挙干渉を行った。

(4) 申請人の前記スローガンに従う新な運動の結果、第一にこれまでは幹部闘争だったため取り上げられることの少なかった時間外労働の制限、昼休みの延長と機械稼動の中止、危険作業者の会社負担による生命保険加入等の職場における具体的要求が組合により取り上げられてその実現を見、かくて従来の組合幹部の無為に対する批判も消え、組合に対する組合員の信頼もようやく高まった。又組合は反合理化闘争として、製品倉庫部門の下請化を企画する関東日塗サービス株式会社の設立に反対し、合成樹脂反応釜増設に伴う労働条件の改善を計るなどの運動を行い、春闘においては時間外労働の拒否や合成樹脂反応釜の部分ストを行うなど、申請人の指導により東部組合は従前の御用組合から組合員の意見と要求に基づく自主的な労働組合に発展し、この間昭和四三年七月申請人は対立候補もなく圧倒的多数の組合員の支持により組合長に再選された。

(5) このような申請人の指導による組合の変質は、会社の意図する合理化や労働強化にとって大きな障害であったため、会社は申請人の組合活動を不可能にすべく前記中央労資協議会において申請人の管理職昇格を申し込んだものであるが、連合会がこれを拒否し申請人が組合長に三選されるや、会社は右意図を実現すべく昭和四四年八月一日本件配転命令を強行したのである。

(6) 同八月一日の辞令交付に対し申請人は本件配転は組合の自主的運営に不当に介入するものであるとしてこれ拒否したが、翌二日横浜工場曽原勤労課長が配転命令拒否を理由にする申請人の解雇を示唆したこともあり、申請人はやむなく即時解雇されることを避けるため右配転命令に異議を留めつつ形式的に課長代理に就任したのである。

東部組合は本件配転につき直ちにその不当性を非難し、同年八月二六日の組合員大会では圧倒的多数で申請人を組合長として信任したが動揺を免れず、申請人支持派と反対派に分裂し対立した。一方会社は申請人の組合活動を禁止するとともに申請人を組合長とする組合活動を「安藤組合長は存在しないから」として抑圧し、更に申請人支持者に年末一時金や仕事の内容につき差別したり、理由なく出勤停止を命ずる等露骨な支配介入を続けている。この間同年一一月一日には会社は申請人が課長代理就任後も組合活動を行ったことを理由に解雇した。

(7) 会社は本件配転の業務上の必要性を主張するが、この主張は申請人に購買課長代理の能力があるという点はともかく、根拠を欠くものである。

即ち当時の購買課は(イ)原材料を購入する購買部門(ロ)それを保管する倉庫部門(ハ)下請会社に注文する外注部門の三部門に大別され、(イ)(ロ)両部門は工場次長水上八郎が課長として統括していたが、(イ)部門には係長として後藤稔が、(ロ)部門には係長として谷津田彭夫が夫々おり、(ハ)部門は角井宗二が統括しその下に荻島主任がおり、従って右水上が他へ転出しても、日常業務は(イ)(ロ)両部門とも右両係長が遂行し、とくに大きな契約は名村工場長自ら直接担当し、何ら支障はなかった。

従って申請人が右水上の後を襲い課長代理になるべき業務上の必要性はなく、現に申請人が解雇され、右水上が出向した昭和四四年一一月以降右購買課長、同課長代理は空席のまま補充されていないのである。

(8) 以上の如く、本件配転は業務上の必要もないのに申請人の組合活動を嫌悪し組合の破壊を意図して同人に組合活動上の不利益を与え、あるいは組合の弱体化を計るため会社のなした申請人に対する不利益取扱いあるいは組合に対する支配介入である。

(四)  人事権の濫用

本件配転は前述のごとく、その業務上の必要もないのに申請人の組合活動を封じ、併せて組合の弱体化を計る不法な動機で、申請人、東部組合および連合会と協議を尽すことなく、単に右四月二五日連合会に申請人を管理職にしたい旨申し入れただけでなされたもので、会社の人事権の濫用として無効である。

二、仮処分の必要性

以上いずれによるも本件配転は違法無効であるが、申請人は、これに従わない場合業務命令違反の名目で懲戒解雇される怖れがあったため、止むなく異議を留めた上で課長代理に就任したところ、会社は申請人が外形上右職務についたことにより申請人は最早組合長でない旨宣伝し、申請人を組合長とする組合活動を妨害する等を敢行し、事態をこのまま放置すれば組合活動と団結が著しく阻害され組合員全体にとり又申請人にとり回復し難い損害を生ずることになるので本件仮処分申請に及んだ。

第四、被申請人の主張

一、(一) 人事協議約款違反について

(1)  本件配転は前記労働協約第二七条第二項、覚書(4)1にいう「任免」に該当し、会社は本件配転に関しては事前に連合会又は組合に連絡すれば足りるところ、会社は前記中央労資協議会で本件配転に関し連合会に連絡したものである。仮に覚書(4)3に該当し、協議が必要であるとしても、連合会は四月二五日の中央労資協議会で本件配転を了承したから、それ以上協議を続ける必要はなく申請人主張の如き違法はない。

即ち右協議会で会社は連合会に対し申請人を同年五月一日付で管理職に発令したい旨協議を申し込んだところ、連合会は当時春闘中だったこと、申請人の組合長の任期終了が近いこと、夏期賞与に関する交渉を控えていること等を理由に右発令の延期を要望したため、会社は右発令を同年八月一日に延期することを提案したところ連合会は異議なくこれを了承したのであって、右管理職発令の時期はともかく発令自体については連合会の承諾があったといわなければならない。

(2)  仮に申請人の主張どおり前記覚書(4)3にいう組合役員は当年度のそれを指称するとするなら、申請人としては七月一日に組合長に三選された際、すでに八月一日の管理職発令が予定されているのであるから、直ちに連合会を通し右発令に関する協議の申し入れを会社になすべきであるのに、これをなさず、本件配転の協議約款違反を主張するのは信義に反する。

(3)  申請人は本件配転につき東部組合との協議がなされていないから本件配転は覚書(4)3に違反する旨主張するが、この主張は右覚書の解釈と運用を誤ったものである。

即ち、会社は連合会を唯一の交渉団体と認めている(労働協約第三条)から、東部組合は交渉団体になりえず、しかも本件配転の如く組合役員の管理職昇格人事は全社的事項であり、その所属事業所内の事項につき協議する東部組合との地方労資協議会の協議の対象とはなりえない。現実にも従来からかかる人事はすべて中央労資協議会で協議されてきたのである。

(二) 労働契約違反について

労働者は労働契約によりその労働力の使用を包括的に使用者に委ね、労働内容を個別的に決定する権限は使用者にあるのだから、予め特に配転、転勤はしない旨の合意がない限り使用者は労働契約の趣旨に従って労働者の同意なしに自由に配転、転勤を命令することができ労働者はこれに服すべき義務があるのである。

本件配転には、通勤場所の変更も職種(事務員、技能員、技術員の三種)の変更もなく、職能制後(一般職、主務職、管理職、専門職)からみるとき専門職から管理職への変更があるにすぎず、従って労働契約の主要部分の変更がないから、本件配転が労働契約に違反するとは考えられない。

(三) 不当労働行為―本件配転の業務上の必要性

横浜工場購買課長は従来同工場次長水上八郎が兼務してきたが、同人はその工場次長の職務が多忙だったうえ、昭和四四年一〇月一日付で関東日塗サービス株式会社に出向が予定されていたため専任課長が必要であり、右課長には製品知識、折衝能力および倉庫業務の経験が要求されるところ、申請人は営業、販売および倉庫業務の経験があり、右職務を充分遂行できると認められたのみならず、同期入社者の昇進基準に照らしても課長代理昇進が相当であったため本件配転を命じたもので、申請人の組合活動を不可能にし組合に介入する意図でなしたものではない。

申請人解雇後は、既に定期異動も終了し直ちに後任課長代理を補充するのが困難だったため、名村工場長が購買課長を兼務して購買部門を担当し、角井購買課長代理が倉庫、外注両部門を担当することになったのである。

二、必要性について

申請人主張の必要性は、組合自体に損害が発生するという趣旨なら申請人個人を当事者とする本件仮処分の必要性の根拠となりえず、又申請人自身の組合活動が不可能であるという趣旨ならかかる必要性は法にいわゆる「著しき損害」もしくは「急迫なる強暴」に該当するといえず、更に本件配転以降東部組合は申請人を非組合員である旨決議し、連合会は会社に同旨の通告をしているから、組合の団結が阻害され回復し難い損害を蒙ることは現実にありえない。

第五、当裁判所の判断

一、先ず申請人主張の人事協議約款違反の点につき判断する。

(1)  疏明によれば、昭和四四年四月二五日の中央労資協議会において、会社から連合会に対し申請人を連合会長生方治郎とともに同年五月一日付で管理職に発令したい旨の申し入れがなされたが、連合会はこれに対しいわゆる春斗の最中であり、殊に賃上交渉も末だ妥結せず、加えて夏期一時金交渉の開始も間もないことが見越され、また同年七月には組合役員の改選が行われること等の理由を挙げて反対したため、会社は右発令を同年八月一日に延期すべき旨告げ、右連合会長生方もこれを一応了承した。しかしながら右協議会に連合会役員として同席していた申請人は自身に対する右発令には到底承服し難いものがあったので、右のような発令延期程度ではあき足らず、まして右七月に予定される役員改選に立候補すれば、再び東部組合長として選出されるべき自信もあったので、列席中の会社社長池田悦治に対し、右組合役員改選後に改めて右発令につき協議がなされるべきことを主張したところ、右池田社長を初め会社側の列席者から敢てこれに異議をとなえるものは無く、右生方もその他の同席連合会役員も同様であったこと、なお会社側の右発令申入れは前記のように申請人をただ単に管理職にすべきことを内容とするに過ぎず、その管理職の具体的役職が如何なるものであるかについては右協議会では一切明らかにされなかったことが一応認められる。

(2)  次いでまた、疏明によれば、同年七月一一日東部組合の定例総会において、申請人は大多数の組合員の支持のもとに同組合長に三選されたところ、前記協議会以降申請人に対する右発令についての協議は右改選前は勿論、改選後もないまま、本件配転命令に至ったことも一応認められるところである。

(3)  以上のとおりであるから、結局本件配転命令は申請人主張のように事前協議を欠くものであって、前記人事協議約款に違反するものであるというの外はない。なお、申請人は右発令後、同命令にいう購買課長代理に就任したことを自認しているが、これは申請人において、あくまで右命令に反対し拒否斗争を続けたのでは、より不利益な懲戒解雇処分に付せられることを恐れ、その無効につき合法的に争う旨の異議をとどめての就任であることが疏明されるので、右就任はなんら前記認定を左右するものではない。ところで右約款違反は無効であると解せられるので、畢竟本件配転命令はその効力を生ずるに由ないものといわなければならない。

(前記労働協約の附属協定書たる覚書(4)第三号は協議対象として、組合役員の転勤、職種転換を掲げるのみで、本件の如き組合役員の非組合員化を伴う昇格配転、しかも勤務地の異動はなく、職種転換でもない昇格配転を含まないかのように解せられるおそれがないではない。しかし、右覚書(4)第三号の趣旨は会社がその人事権を乱用して組合活動に不当な影響を与えることを防止するにあることが明らかであるから、組合役員の転勤、職種転換に関して会社が連合会又は組合と協議することを要求することにあり本件の如く組合役員を非組合員化する如き重大な影響を組合活動に与える人事について協議を不要とし単に連合会又は組合に対する事前の連絡で足りるとする趣旨とは考えられず、本件の如き場合も右覚書(4)第三号に規定される転勤あるいは職種転換に準じて協議を必要とするとすべきことはいうまでもない)

二、必要性

そこで仮処分の必要性について判断するに、前記のとおり申請人は東部組合の組合長として組合活動をなしてきたところ、本件配転は申請人から組合活動の可能性を奪うことになり、本案判決の確定を待っていては申請人に回復し難い不利益を及ぼすことは明らかである。従って申請人が従前どおり被申請人会社の東京支店製品倉庫課製品倉庫係長として被申請人横浜工場に勤務する従業員としての地位にある旨の仮処分の必要性を肯定すべきも、被申請人に申請人を昭和四四年七月三一日当時の労働条件で扱うことを命ずる仮処分はその実質が右仮処分と重複するため不必要と考えられる。

三、結論

以上の次第で本件仮処分申請は右限度で保証を立てさせないでこれを認容すべく、その余は失当として却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 立岡安正 裁判官 新田圭一 島内乗統)

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